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GAT 029 チャールズ・リンゼイ
悟りの撮り方(翻訳一時停止)

2022.03.02
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コロナで閉鎖した中国の国境を前に、日本に長期滞在することになったアーティスト / 冒険家チャールズ・リンゼイ。京都での禅僧との出会いが、次の作品へと繋がった。没入型の環境、サウンド・インスタレーション、航空宇宙やバイオ・テクノロジー機器の回収品を素材に、彫刻を制作してきたリンゼイが観る禅の「意識」とは?以下は2021年10月9日に行われたオンライン・トークの抜粋である。

構成: 石井潤一郎(ICA京都)




コロナ禍の京都で

パンデミックが起きた当初、中国の美術館や大学へ、展覧会や講演会の打ち合わせに向かっていたわたしは、京都で足止めをされることになってしまいました。東京を通過している最中に中国の国境が閉鎖されてしまい、仕方なく数日間、京都の友人に会いに行くことにしました。そして、そのまま5カ月滞在することになったのです。

パンデミックの渦中にあって、わたしはどんなモノが、人工物が、「パンデミック」をうまく物語るのだろうかと考えました。100年後に、この2020-2022年のパンデミックを象徴するものは一体何だろうか。わたしは(実現しなかった)2020年東京オリンピックの、花見桜のビール缶が最もユニークで面白いのではないかと考えました。

それで、それを集めて、潰して、京都の両足院で制作予定のものも含む、今後の作品に使用してゆこうと考えたんです。これはパンデミックの中でのちょっとした楽しみでもありました。どうしようもない、パンデミックなのですから・・・ そういったわけで、京都で自転車を買って毎晩サイクリングをしていたのですが、これもこの頃の楽しみの一つでした。今後の作品のアイデアを練っていたのです。

京都の下鴨北園町、築100年の古民家を利用した私のアパート(明かりが点いているところ)です。黄色いパーキング・メーターにご注目ください。

これは臨済宗建仁寺派、両足院の伊藤東凌さんです。建仁寺の塔頭寺院である両足院の副住職です。

パンデミックの初期、すべてが閉鎖される直前にわたしは東凌さんと出会いました。大人になってからずっと「禅」に興味を持っていましたので、わたしは東凌さんに尋ねました。「人工知能(AI)は感覚をもつことができるだろうか?意識をもつことができるだろうか?そしてもしそうであれば、悟りを開くことができるのだろうか?」

この問いが元となって、東凌さんはわたしに、お寺でインスタレーションを制作し、展覧会を開催することを提案してくれました。彼は以前にも現代のアーティストたちと仕事をしています。ですから、わたしはこの展覧会を追求するために京都に戻ります。そして京都に戻ったら、わたしたちは(禅の中心的な考えである)意識とは何か、悟りとは何かといったことについて、議論することになるでしょう。

時間ー空間、そして意識

これは、京都のわたしの家の隣にあるパーキング・メーターを元にしたモックアップです。拡張現実(AR)を使い人々の経験を「ゲーム化」しながら、わたしはこれをインタラクティブな彫刻にしたいと考えています。

さて、パーキング・メーターは何を売っているのでしょうか?それは時間と空間です。これは非常に面白い領域で、作品を作る上でとても興味深い対象だと思います。

それで、今回の展覧会のタイトル「悟りの撮り方」です。わたしは京都でたくさんの写真を撮っていました。これはちょっとナンセンスな質問のようですが、悟りを写真に撮るにはどうすればよいのか?悟りを開いた人はどんな容貌をしているのか、見分けがつくのか?そもそも現代という時代において、わたしたちは悟りとは何かを知っているのか?

実際、わたしたちはこれらのことを知っていると思います。しかし、わたしはユーモアと厳密さを交えながら、この「意識」という概念が何であるのかを考えてみたいのです。それは人間にのみ可能なものであるのか。それとも機械が意識を持ち、やがて悟りを開くに至るのだろうか。

これは現在カナダで行っている写真測量(フォトグラメトリー)のテストです。iPhone 12はLiDARスキャンや3Dスキャンを使用していますので、これらはもうすぐである京都に戻った時のためのテストです。これらはスキャンであり、ポリゴンですが「写真」です。画像を見てもピンとこないかもしれませんが、100%写真なのです。ですから、わたしがとても興味を持っているのは、現在起こっていることの、あらゆるデータの収集なのです。

これらは加工された画像ですが、わたしたちはすべてのデータが収集される時代に生きています。これはデバイスを通して行われる、これまでとは異なるレベルのデータ収集なのです。

わたしが開発しているプロジェクトの組み合わせ、まだ完成していない進行中のプロセスを共有します。

これは、わたしが「ポーズ・トランスレーション(翻訳一時停止)」と呼んでいる作品です。スクリーンに静止画像の翻訳が表示されていると思います。これはGoogle翻訳のカメラを使っていて、わたしはそれを看板に向けながら京都の町を歩いているわけですが、それがわたしにとって、ある種の詩を生み出しているのです。それはナンセンスなのですが、時にそのナンセンスは詩のようにもなるのです。

わたしが興味を持っているのは、つまり「誤作動(詩)」と呼べるようなものです。それは翻訳におけるエラーであって、とても興味深いことだと思っています。ここでのポイントは、今話していることを終わらせるための重要なポイントなのですが、ここが今「技術」が存在している場所なのです。

ですから、技術が進歩すれば(それはすざましい勢いで進歩していますが)、将来のある時点で翻訳が完璧になるのではないかと想像しています。そして翻訳が完璧になったとき、そこにはもはや詩は存在しないのではないかと想像するのです。これはアートとは何かということを考える上で、非常に興味深いことです。アートはしばしば、ある種の不完全なものの間に存在しています。ですから人間とテクノロジーの進化という文脈の中で、わたしは「中間」や「不完全さ」を探求しているのです。


チャールズ・リンゼイ(アーティスト)

テクノロジー、時間、エコシステム、記号論に関するアイデアを統合した作品を生み出すアーティスト、冒険家。没入型の環境、サウンド・インスタレーション、航空宇宙やバイオ・テクノロジー機器の回収品を素材にした彫刻を制作している。SETI研究所のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムであるSETI AIRを創設。NASAエイムズ研究センターで3つのプロジェクトを制作。「FIELD STATION」は、彼の掲げる進化するインスタレーションという発想を表す言葉である。グッゲンハイムフェロー。
京都芸術大学客員教授。建仁寺両足院を会場とする作品《How to Photograph Enlightenment (Pause translation)》を制作中。AIが感覚を持ち、自己認識し、最終的には悟りを開くかどうか、そしていつ悟りを開くのかを探究する。近年では、マサチューセッツ工科大学メディアラボが開催するイベント『Beyond the Cradle: envisioning a new space age』など、国際的に講演や展示を行う。
http://www.charleslindsay.com

※ このトークは2021年10月9日にオンラインで開催された。