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「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」
文:北野貴裕

2019.05.09
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北野貴裕

アニメーションは絵だ。そして虚構だ。人物や舞台にモデルがある場合でも、フィクションとして我々が受け取る以上、そこに映っているものはこの世に存在しない、非現実。しかしそれで言うと『響け!ユーフォニアム』(以下、『ユーフォ』)はアニメーションっぽくない。キャラクターデザインや絵のタッチが実写に近いわけではないのだが、伝わる印象としては妙なリアルさ、生っぽさがある。その理由のひとつに、カメラの存在が感じられる、という点がある。

『響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』(以下、『誓いのフィナーレ』)は、2015年、2016年と2期に渡って放送されたTVシリーズの続編である。『ユーフォ』の画作りにはTVシリーズのころからカメラの存在を感じさせる撮影処理が行なわれてきた。最もわかりやすいのは、被写界深度の浅さだ。単焦点レンズで撮影したかのような強いボケ感が施されている。それによって平面である絵に奥行きが生じ、実写的な空間が演出されている。またパン・フォーカスや手持ち撮影のような微妙なユレ、逆光時にはカメラのレンズに付着した汚れ(ホコリ?)が映っているカットも確認できる。実際にカメラで撮影しているかのような画作りは『誓いのフィナーレ』でも一貫して見受けられる。

また『ユーフォ』の画作りの特徴として、前述したリアルさを超えてくる、アニメーションならではの過剰に見せる場面もある。それはTVシリーズでも描かれた、『ユーフォ』ではおなじみの長尺の演奏シーンに見ることができる。

物語のクライマックスに用意された演奏シーンは、本作でも約10分に渡って描かれる。実写映画でいえば、『セッション』(監督:デイミアン・チャゼル)でのラスト9分間の演奏シーンが話題になった。1曲目の「キャラバン」で、カメラはあらゆる構図で奏者や楽器を捉える。しかし2曲目「ウィップラッシュ」になると、今度はアンドリューとフレッチャー、ふたりを捉えたショットが中心となり、ほかの奏者や観客は一切映らない。それによってこの物語が、アンドリューとフレッチャーふたりの物語であることを印象づけている。

一方で『誓いのフィナーレ』における演奏シーンはとにかく自由だ。まずカメラは天井の照明を捉え、パン・ダウンしながらズームアウト、ステージの全貌をロングショットで捉える。そこから指揮者、奏者、楽器、観客と切り替わり、ときには楽譜の書き込みや舞台袖から見守る補欠部員たちをも映しだす。主要人物に偏らず、会場に存在するすべてを均等に捉えることで、この物語が主人公・黄前久美子ひとりの物語ではなく、部員一人ひとりの物語であることを印象づける。カットは曲の盛り上がりに合わせて素早く切り替えられ、カメラワークのアグレッシブさも増してゆく。カメラは奏者の背後に回り込み、一気に横移動、会場中を縦横無尽に動き回る。リアルさを徹底してきた画作りは、ここでリアリティをオーバーし過剰に、カタルシス的に我々のエモーションをかき立てる。『ユーフォ』はこのようなリアル/過剰のバランスを巧みに操り、映像に美しさと迫力を与えてきた。この演奏シーンだけでも200カットが費やされている。

本作において優れている点は撮影処理に留まらない。演出の面でいえば、大吉山でのシーンも特筆すべきだろう。TVシリーズ一期の第八話にて描かれた、久美子と麗奈の関係性が急激に縮まる場面。祭りの日の夜、大吉山の頂上を訪れたふたりには、下からライトを当てているかのような強い光が入れられている。彼女たちは夜の闇の中で背景から浮き上がり、そこでのできごとの特別さが画面全体から伝わってくる。このシーンは『誓いのフィナーレ』でも反復され、同様に強い光の入れ方がされている。

また物語の後半、本作から登場した新入生・奏のシーンでもある演出が見られる。コンクールメンバーのオーディションにて、彼女は先輩に遠慮し、落選するためわざとヘタな演奏をする。それを咎められた彼女は、これまで隠してきた本音を漏らし、逃げるように走り去る。雨の中、彼女は追いかけてきた久美子に、中学時代のある過去を打ち明ける。その後久美子の説得によって奏は心を動かされるのだが、このとき彼女越しに太陽の光が射し込むのを確認できる。この天候の変化は奏自身の状況/心情とリンクしており、彼女の抱えていた問題の解消が示されている。

『ユーフォ』ではこのように、物語の流れや人物の心情が視覚的に表現されてきた。ほかにも、久美子と奏の関係性がTVシリーズでのあすかと久美子の関係性に重なる点や、それを言動の一致、合奏時の座り位置などで見せている点、続編として100分の作品に落とし込むシナリオの巧みさ、もうひとつの主役である音楽など、優れている点を挙げればキリがない。なにかひとつに突出した作品ではないということだ。そういえば、それはどこか吹奏楽と似ている。吹奏楽はひとりの奏者、ひとつの楽器のみでは成立しない。それぞれの奏でる音が重なり合ってひとつの曲となるように、本作もスタッフらのプロのワザが結集してこそ完成した。それは吹奏楽が題材の作品としてふさわしいといえるだろう。

(2019年5月9日公開)

 
きたの・たかひろ
1994年 神戸市生まれ 神戸市在住。京都造形芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース卒業。現在、映像編集アルバイト。
 



〈映画情報〉
「劇場版 響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ」
監督:石原立也 原作:武田綾乃 脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子 美術監督:篠原睦雄
2019年、100分、松竹
オフィシャルサイト

(上映情報)
2019.4/19〜 全国ロードショー
関西では、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他にて

(c) 武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会