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AiRプログラムとCOVID-19
文: 石井潤一郎

2021.02.26
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Photo by Ishii Jun'ichiro

文: 石井潤一郎(ICA 京都)

アーティスト・イン・レジデンス(AiR)とは?

滞在制作の歴史は古く、1666年、フランス王立アカデミーがローマの「ヴィラ・メディチ」を買い取り、ローマ賞の大賞受賞者や、封建領主に庇護された芸術家を留学させたことに遡ると言われている。

現在、世界最大級のAiRデータベース「TransArtists(トランザーティスツ)」には、およそ1,500件ものAiR情報が掲載されている。しかし、アーティストの活発な往来を奨励するAiRプログラムは、今日のアート・システムの中でも比較的新しいものであると言えるかもしれない。1990年代以降にインターネットが爆発的に普及してオンラインによる個人申請が手軽になり、国際的なAiRへの参加がようやく身近な選択肢となった。

アムステルダムの「ライクスアカデミー」や、ベルリンの「クンストラーハウス・ベタニエン」、パリの「シテ・アンテルナショナル・デ・ザール」や、ニューヨークの「ISCP(International Studio & Curatorial Program)」など、国際的な登竜門的AiRプログラムが、作家のみならずキュレーターや研究者らの国境を超えた活動を支援し、実践的な創作や高度な理論構築の場を提供する。AiRによって育まれたプロフェッショナルなネットワークが、プログラム参加者の将来に大きく関わってくることもある。

日本では1987年に、オーストラリア・カウンシル・フォー・ジ・アーツが、東京に自国のアーティストを滞在させるためのスタジオを開設した。89年には東京の「遊工房アートスペース」が海外作家の滞在を受け入れはじめ、92年には京都に——ヴィラ・メディチの姉妹施設となる——「ヴィラ九条山」が開館。日本全国のAiR情報を集める総合サイト「AIR_J」には、現在60件以上の国内プログラムが登録されている。

国際的なAiRプログラムとして京都にはほかに、ドイツの作家や研究者を滞在させる「ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川」、国籍を問わずビジュアル・アーツとパフォーミング・アーツを隔年で募集する「京都芸術センター」、京都府の運営する「京都:Re-Search」、遊工房アートスペースが提唱し、近年注目を集める「マイクロレジデンス・ネットワーク」に連なる「ANEWAL Gallery(アニュアルギャラリー)」などがある。

COVID-19がAiRに与えた影響

2020年3月27日、政府主導の大型のものから民間のものまで、すべての国際的な活動がパンデミックによる深刻な影響を受ける中、国際的なAiRネットワークをサポートする財団「Res Artis(レザルティス)」は以下の声明を発表した。

「芸術の滞在制作は、私たちを取り巻く世界を反映し、ほかのどの芸術分野にも増して多様なコミュニティと関わり、異文化の相互理解と平和維持の架け橋となっています。COVID-19の流行が終息すれば、滞在制作は国内および国際的な交流の再開に重要な役割を果たすでしょう。滞在制作は私たちの未来なのです」

9月には、Res Artis と「UCL(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)」が、COVID-19が国際的な AiR プログラムに与えた影響を調査したレポートを発表した。

2020年5月7日から6月1日の間に実施された調査には、世界中の774人のアーティスト、そして358のアート組織から計1,132件の回答が寄せられた。レポートによれば、COVID-19の影響により、予定されていた AiRプログラムの54%がキャンセル、変更、短縮、あるいは延期され、回答した団体の9%が無期限の閉鎖を余儀なくされた。Res ArtisとUCLは2021年までに計3回の調査を予定しており、今回の報告が第1回目となる。

京都では、新型コロナ第一波の影響で入国制限を始める直前の3月、ヴィラ九条山とヴィラ鴨川からは欧州の作家たちが撤退した。京都芸術センターでも、本年度に予定されていた5つのレジデンス計画はすべて来年度に延期され、小規模でAiR事業を展開するANEWAL Galleryでも、現在AiR・展覧会業務は完全に停止しているという。

2020年12月11日と12日には、オランダ、フランス、ドイツ、日本のAiR専門家が集まる、オンライン・シンポジウム「AIR on air」が開催された。ICA京都では今後も、国際的なAiRプログラムの動向をレポートしてゆきたい。