AiR Report
オンラインのAiRプログラム ーアーティスト同士の新しい関わり方ー
文: 梶原瑞生
『CONA Foundation』(以下CONA)は、インド・ムンバイの北西端に位置するボリヴァリ・イーストに、アーティストであるシュレヤス・カルレ氏、ヘマリ・ブータ氏によって創設されたスペースである。そこにはコロナ禍以前、インドの国内外から様々なアーティストが出入りしており、ワークショップが開催される時期には特に多くの作家が集っていた。現在行われている「Art In-betweeners」は、主に芸術大学等を卒業したばかりのアーティストを対象にしたプログラムで、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、すべてZoomなどを使用したオンラインベースで進行している。Artist-in-Residence(以下AiR)プログラムとしての機能を代替的に果たすものだが、今後、実際に参加作家が集まることができるのかどうかは未確定だ。今回のオンラインプロジェクトは、どちらかといえばメンタープログラムに近い。それを断った上で、約2ヶ月間の経験を経て実際に感じたことや、コロナ禍におけるAiRのあり方などを参加者の立場から共有したい。
CONA創設者のひとりであるカルレ氏は2018年7月にグローバル・ゼミのゲスト講師として来校しており、私たち5人の学生は約2週間にわたって彼のカリキュラムに参加した。それがきっかけとなりCONAの活動に興味を抱いた私は、2019年6月に個人でムンバイを訪れ、ワークショップに参加しながら約2週間滞在し、様々な作家と出会った。アート、映画、詩、音楽など多岐にわたる分野について議論を行う。食卓には豆や野菜を主材料とした西インド特有のカレーなどが薄焼きのチャパティと共に並べられ、休憩時には一杯のチャイで団欒をし、また芸術についての議論を再開する、という日々である。ここでは他者と24時間共に過ごしながら食卓を囲み、常に流動的にコミュニケーションを取ることが何よりも重要視されていた。
2020年9月に開始されたプロジェクト「Art In-betweeners」においても、その理念は通底している。選出された30人(うち日本から1名、カナダから1名、ドバイから1名、インドから27名)のアーティストは、まずは合同ミーティングから始め、3つのグループに分かれてメンバーと話し合う。次にカルレ氏やブータ氏に加え、批評家でライターのアヴィーク・セン氏や、主に写真を扱うビジュアルアーティストのアマルナート・プラフル氏との個人面談も行なわれた。ギャラリーの定義や現在のアートマーケットの問題、アートとクラフトの相違点等を語り合う一方で、「架空の他者になりきって面談に参加する」という実験的な試みやブレインストーミング形式のゲームなど、様々な内容をもって進行している。時には9時間に渡るセッションが2日間続くなどかなり密なやり取りが行われているが、何よりも「対話」を重視したこのプログラムは、滞在経験に相当するほどの集中力で行われていると言える。
AiRの魅力は、その土地でしか得られない特有の経験やアーティスト同士の交流などであるが、今回のコロナ渦において、多くの作家が滞在を中止・中断せざるを得なくなった。その中でCONAは、オンラインでありながら、圧倒的な熱量を保ったままアーティスト同士の意見交換を続けている。コロナであらゆる活動が停止してしまった今、他者と議論をすること、そしてアートの在り方を考えることこそむしろ停止させてはならないことではないだろうか。メンバーとリアルに顔を合わせる日を心待ちにしつつ、引き続きこの状況下でも可能な限りの経験を得たいと思う。
梶原瑞生(かじはら・みずき)
アーティスト。京都造形芸術⼤学(現 京都芸術⼤学)現代美術コース卒業。同大学大学院 グローバル・ゼミ修了。