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GAT 047 笹本晃
ポイント・リフレクション

2025.12.01
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Installation view, Aki Sasamoto: Point Reflection, Queens Museum (December 6, 2023 - April 7, 2024). Photo courtesy Queens Museum, credit Hai Zhang.

2000年代前半よりアメリカを拠点に活動する笹本晃(ささもと・あき)は、自ら設計、構成した彫刻や装置を空間内に配置し、それらをスコアのように用いて行う、即興的なパフォーマンスや映像を用いたインスタレーション作品を制作・発表してきた。以下は、2024年6月24日に行われたトークからの抜粋である。

構成:奥田 奈々子


ポイント・リフレクション

最初にみていただくのは、インスタレーション作品としてヴェネチアビエンナーレで展示した《Sink or Float》(2022年)というインスタレーションです。まずはこの説明をしてから、第二部として作ったパフォーマンス作品《ポイント・リフレクション》(2023年)の話をしたいと思います。

《Sink or Float》は、倉庫みたいな会場に業務用のキッチンシンクを並べたインスタレーションです。シンクにはたくさんの小さな穴が開けてあるんですけど、内部にはファンが設置してあって、下からの風を受けて、上に載せたカタツムリの殻とかスポンジが動く仕掛けとなっています

Aki Sasamoto, Sink or Float, 2022, installation view at the 59th Venice Biennale. Image courtesy of Take Ninagawa, Tokyo, and Bortolami Gallery, New York.
Photo by Wolfgang Trager.

周囲に設置したホワイトボードには私がいま気になるものが書いてあります。私の近所のカフェの金額とかダイナーのメニューです。あとは、「蛇がどうやってカタツムリを食べるのか」という画などです。カタツムリは右巻きが多いのですが、たまに左巻きのカタツムリもいるんです。作っている途中になぜだ?と気になってこの画を描きました。

これを描いた時はパフォーマンスをしなかったんですけど、いつか、このカタツムリの画を元にパフォーマンスもするんだろうなと思った記憶があります。そんな風に思っていたら、ヴェネチアから帰ってきたタイミングで、クィーンズ美術館から新作の依頼があったので、よし、と決めたんです。こうして制作されたのが《ポイント・リフレクション》です。

普段作品をつくるときに、パフォーマンスとインスタレーション、どちらから始めるのか?みたいなことってあまり気にしていなくて、インスタレーションを作ることもあるし、パフォーマンス型インスタレーションを作ることもある。それを意図的に混ぜ合わせたりするのが好きなんです。《ポイント・リフレクション》もインスタレーションが出来上がった状態で、次に何かやるんだったら同じテーマの反対側、B面をやろうかな。って感じでした。

実際には《Sink or Float》でシンクの下から風を当てて、上に浮かせていたものを、できるだけ大きくしてみたらどうなるだろう?カタツムリやスポンジを自分に置き換えたらどうなるんだろう?ということをコンセプトとした、パフォーマンス作品です。会場であるギャラリーの電力のギリギリまで浮かせる対象を大きくしたらどうなるかな、という観点で作りました。

この作品では、普段、映像作品のサウンドを作ってくれている15年来のアーティストとコラボレーションして即興でパフォーマンスをしました。制作中、ミッドライフクライシスみたいな状態になっていた時期だったんですが、こうした自分の体験や学びもパフォーマンスのテーマの1つとして、ステージに投影しステージの上でスピーチをしました。ポイント・リフレクション[*1]というんですが、幾何学的に反転させた形に自分の経験を投影してどう表現できるか、それをパフォーマンスするというのが、この作品で私の描いたゴールでした。

Aki Sasamoto: Point Reflection, performance at the Queens Museum.
Photo courtesy Queens Museum, credit Hai Zhang.

リバース・エンジニアリング、逆説的に考える

リバース・エンジニアリングと呼んでいるんですが、私は普段、目的に向かって効率よく何かを作るのではなくて、面白いものを見つけたときに逆算し、解体して、自分なりにつくるみたいなかなり無駄の多いやり方をしています。

《Sink or Float》を作ったのは、その前の作品を制作していたときに、ガラス工場で使われていたエアーフロートテーブルが欲しくて、自分で作ろう思ったのがきっかけです。工場では、加工中に割れないようにガラスを空気で浮かせながら作業をしていたんです。その後にバーで、エアーホッケーのゲーム台をみて、どんな仕組みになっているのか気になって、実際にガラクタショップで20ドルくらいで購入し、仕組みをみてみることにしました。[39:21]ほかにも扇風機メーカーに問い合わせて話を聞いたりもしました。そこからは、スタジオにあるいろんなものをシンクの上に置いてみて、どんな動きをするのか、風量や穴の間隔によってどういう動きをするのか?と観察する日々がはじまりました。

装置もいちいち自分で作るので、めんどくさいんだけど、ゾーンに入る瞬間があるんですよね。感情移入できるというか。そういう、訳のわからない感情を経過させた方が、人に作ってもらうよりもいいような気がするんです。穴を開けるにしても、まっすぐに開けたいんだけど、これをレーザーでやると穴がコーン形状になっちゃって、風向もかわる。丸さとか深さとか、そういう実験を一人でやりたいんです。計算の世界と実際のズレみたいなのが生まれることが面白いなと思っていますし、誤差をあえて拡大したいのでこういう作り方をしています。

インスタレーションを作る時も同じです。ベネチアのときは現場視察をしにいったときに雰囲気をみて、業務用のシンクとか冷蔵庫を設置したくなったんです。あと、その時気になっている人がケーキ屋さんだったんで、こういう業務用ツールに興味があった笑 シンクの上にカタツムリを載せたのは、3歳の息子がハマっていたのがカタツムリの収集で、カタツムリに関する本を借りて読み聞かせをしていたんです。そこでカタツムリには右巻きと左巻きがあるみたいなことを知って、興味を持っていて。ベネチアで現場視察をしていたときに会場の外にでたら偶然、足元にカタツムリがいたので、運命じゃん!ってなったんです。

カタツムリの研究をしている研究者や、イェール大学のポスドクで貝殻の形のバリエーションの研究をしている人に会いに行ったりもしました。カタツムリの研究者は、カタツムリが天敵である蛇から生き残るために、逆巻きのカタツムリがいるという仮設を立てているんですけど、生物学者でも科学者でも体験があってこういう、進化論の仮設が立てられるわけで、信じていない者からしたらそこで議論ができる。酒場の喧嘩みたいだけど、実際とは違うフィクションが生まれる感覚というか、無限のストーリーの中から可能性が開く感じが面白いと思っています。

作品を作る過程としては、キッチンとかカタツムリとか、「1つひとつの要素が時を経てつながっていく」というのがイメージに近いかもしれないです。そういえば、扇風機にも右巻き・左巻きがあるしと、だんだん「集まってくる」という感覚がある。

偶然をどうやって並べるか。偶然をどうやって一直線にみせるかって即興でパフォーマンスをやるときにとても重要なことで、軸をどう合わせていくかだと思うんです。この感覚をインスタレーションにも取り込みました。
パフォーマンスに関しては、最終的に理解されなくてもいいという気持ち。伝わるのは1点でいい。もし、10個くらい伝えたいことがあってもそのうちの1つが伝わればいいなと思ってやっています。


[*1]直訳では点対照。過去の経験や行動を振り返り、学びや気づきを得て、次の行動に活かすための手法



笹本晃(ささもと・あき)

ニューヨーク在住。美術、パフォーマンス、ダンスの場で創作活動をする傍ら、イェール 大学の彫刻科で教鞭をとっている。多種の要素が混合する彫刻的空間を創り、その中で自らパフォーマンスを行う。主なグループ展にベニス・ビエンナーレ(2022年)、あいちトリエンナーレ(2022年)、上海ビエンナーレ(2016年)光州ビエンナーレ(2012年)、 ホイットニービエンナーレ(2010年)、横浜トリエンナーレ(2008年)、主な個展にパラ・サイト(香港、2024年)、クイーンズ美術館(ニューヨーク、2023年)、ザ・キッチン、(ニューヨーク、2017年)、スカルプチャー・センター(ニューヨーク、2016年)、等がある。