GAT 042 レオノール・アントゥネス
主婦とその領分
Installation view, Fruitmarket, Edinburgh, 2023. Courtesy the artist, kurimanzutto, Mexico City / New York and Marian Goodman Gallery. Photo: Nick Ash.
ベルリンを拠点とする彫刻家レオノール・アントゥネスは、リスボン美術大学とカールスルーエの国立美術アカデミーで彫刻を学び、20世紀の建築、デザイン、アートの歴史における日用品の機能とモダニズムの形態を探求している。彼女の作品は、多様な素材を統合し、物質内に潜む価値を再解釈することで、抽象的な構造を生み出す。作品には、メキシコ、ポルトガルなどの伝統的な職人技を取り入れ、合理的なデザインの原則や幾何学を通じて現実を抽象化するプロセスを探求し、様々なデザイン要素を反映させている。2021年から2022年にかけて行った「主婦とその領分」の展示では、戦中・戦後の日本やアメリカ、ヨーロッパにおける近代性や女性の慣習に焦点を当て、関連するアイデアを広く探求した。以下は2023年10月24日に行われたオンライン・トークの抜粋である。
構成:黒木杏紀(Art Park)生涯影響を受けた2人の女性アーティストの存在
表題の「主婦とその領分」は引用文です。私の作品では引用から着想を得たものが多いです。この作品のインスピレーションとしてまず挙げられるのが、フランス人デザイナーのシャルロット・ペリアン(以下「ぺリアン」とする)。彼女は日本政府から、輸出工芸指導の顧問として招聘を受けて日本に滞在していた時期がありました。このタイトルはあるフランスの雑誌の引用で、その記事には近代的な空間における機能性について書かれていました。そして、もう1人が日本人の山脇道子。彼女はドイツのバウハウスで学んでいます。
この作品は、パリで制作され、国際芸術祭「あいち2022」で発表したものだったのですが、特にキュレーターの片岡真実さんに先見の明がありまして、丹下健三建築が手掛けたモダニズム建築に合わせて、美しく表現できると見出されました。パンデミックの期間にオファーを受けリスボンで、セラミックアーティストの人たちと共同で制作したものです。
山脇道子について
山脇道子は裕福な家の出身で、父親は茶道をたしんでいたりと文化的な男性であり教育にも大変熱心でした。建築家の夫とともにドイツにやってきたらいいと言われ、彼女も興味をもち、ドイツにやってきました。こちらがドイツに入国した時の彼女のパスポート写真です。
彼女はデザイナーかつ日本人としては、バウハウスに入学した初めての女性でした。最初はバウハウスに関心がなく、滞在するうちに興味が湧き、入学を願い出ました。テキスタイル課に2年間在籍し、それが結果的にデッサウでの最後の滞在となります。バウハウス3代目校長ミース・ファン・デル・ローエのときにナチス政権によってバウハウスは閉鎖、そのまま廃校となり、日本帰国にいたります。
帰国後、山脇道子はテキスタイルを広めることに注力しました。これは資生堂ギャラリーでの展覧会で、彼女の近代的でモダンな作品が展示されています。
自身もテキスタイルデザイナーとして、東京を拠点にバウハウスの理念や学び、デザインなどを熱心に広めていきました。ここは東京で彼女が夫と一緒に過ごした場所で、そこで彼女はスタジオを設け教鞭も取っていました。
バウハウスと山脇道子の色彩
バウハウスの原則は先進・進歩的でしたが、色彩においては狭義的な一定のパターンを教えるところがありました。彼女はバウハウスの色の組合わせの階層を尊重できず、自身の色を使い始めて、バウハウスの色に対する姿勢に対して批判の姿勢を見せ、実際に批判もしました。つまり、バウハウスが定義する色彩感には背いたのです。
このような矛盾、違いがぶつかるところに私は興味を抱きます。バウハウスという学校の中で学生たちはさまざまな分野を切磋琢磨するわけです。彼女はそこで自身の文化的な知識、色の使い方を紹介していきます。バウハウス式ではなく日本に根付いた色使いを用いた点に、私は大変興味を持ちました。
パリ国際高等美術学校の展示作品について
これは平面の床の上にセラミックの作品を立てたものです。先ほどのドローイングをパズルのように組み立て立体的なオブジェに変容させています。ドローイングを拡大し、比例尺度は忠実に守っています。このプロジェクトは毎年開催する芸術祭に招かれたもので、アーティストは好きな場所で展示ができ、私はパリ国際高等美術学校のチャペルを選びました。

Leonor Antunes, “The Homemaker and Her Domain / In Conjunction with Festival d’Automne à Paris”, installation view at Villa André Bloc, Sep 18 – Nov 27, 2021.
Photo: Nick Ash
このチャペルには、特にルネッサンスや新古典、ネオクラシカル時代の芸術家たちのコピー作品がたくさん展示されています。18世紀フランス革命のときに破壊された場合に備え、当時の王が彫刻作品のコピー制作を命じたからです。最終的に、作られた彫刻は美術学校に送られました。今日の学生たちがその彫刻を描いていますが、ただのコピー作品をドローイングしているという面白さがあります。こんなに多くの彫刻作品があるというのに全て模造品なのです。
ここは、すでにたくさんの絵画と石膏の彫刻作品があるので空間に介入する形ではなく、天井高を活かすため床を使い「水平」をアイデアとして採用することができないかと考えました。また、主に天井から降りそそぐ日光を使い、装置として使ったランプは作品を照らしますが彫刻としては存在せず、空間に膨らみをもたらす効果として用いました。私はいつもすでに存在する光を用いようとします。そうやって全体をフラットに仕上げていきます。
シャルロット・ペリアンの日本滞在
ぺリアンと山脇道子は2人とも日本とヨーロッパで活躍したアーティストです。ペリアンは日本で職人たちと西洋的な作品も共同制作しましたが、必ずしも成功だったとはいえないと思う理由は、彼女が西洋的な理解を作品に投じたからです。例えば、竹材を使い過ぎたこと、物体を尊重しない形で用いたことなど、日本のものに対して少し過剰になってしまったのではと考えています。

Leonor Antunes, “The Homemaker and Her Domain / In Conjunction with Festival d’Automne à Paris”, installation view at Villa André Bloc, Sep 18 – Nov 27, 2021.
Photo: Nick Ash
この陶器で作られた彫刻はペリアンの作品ですが、これはテーブルのようで陶板のようでもあります。これは彼女がデザインしたものです。私はこの作品をさらに長くしました。ぺリアンは竹素材のテーブルを制作し、私はそれを自分の形に作り変えています。

Leonor Antunes, “The Homemaker and Her Domain / In Conjunction with Festival d’Automne à Paris”, installation view at Villa André Bloc, Sep 18 – Nov 27, 2021.
Photo: Nick Ash
制作プロセスについて
このオブジェの制作過程についてお話ししたいと思います。私自身、素材や技術に関心を持ち、ただ職人たちに制作してもらうのではなく自分の手を使いたいと思ってました。そこで、リスボンにある知人の女性2人が作業する工房に連絡し、規模の大きなプロジェクトを持ち掛けました。そしてその制作作業に携わりたいと申し出て、私を含め3人で8か月かけて作品を制作しました。
やったことはセラミックをプレス機で潰しペタンコにして、粘土に直接プリントしました。釜土によってサイズの制限がかかるのでカットを入れて、さまざまな粘土の種類を選び素材感を出していきます。この作品はもともと山脇道子のデザインなので、彼女のドローイングにあった色を忠実に再現することにこだわりました。
「主婦とその領分」のもうひとつの作品、巡回とアーティストたちの移住
これはもうひとつの「主婦とその領分」の作品の形でさらに複雑性を持っています。まるで1つの図書館のように、合致すると思う他のアーティストが入っていく形で展開しています。この作品はまずロサンゼルスのハマー美術館(Hammer Museum)で発表され、次にメキシコに巡回、スコットランドのエディンバラにあるフルーツマーケットギャラリーでも発表されました。

Leonor Antunes, The homemaker and her domain II, 2022. Installation view, Fruitmarket, Edinburgh, 2023. Courtesy the artist, kurimanzutto, Mexico City / New York and Marian Goodman Gallery. Photo: Nick Ash.
そして、ペリアンはまたパリに戻ります。そしてデザインのコラボレーションをして、このような竹を用いた壁を作っています。これはイサム・ノグチのランプも参照しながら手掛けていったものなのですが、私はそれに着想をえて、この作品を作りました。「シェルフィング(shelfing)」という棚(shelf)の現在進行形のタイトルをつけて、あるイメージを用いています。それは、戦後に多くの人が、特にバウハウスから多くのアーティストがアメリカに移住したことと関係しています。
私はこのような椅子をデザインしました。これも棚のシステムで桜の木を素材に使っています。形自体はペリアンが日本でデザインした作品に着想を得ています。椅子の腕をかける部分を広げ、そこに竹で作ったピンを打ちました。この竹製のピンが回転をうながし、フラットな状態に形を変えることができます。これは、前と後ろに人が座って会話をするための椅子なんですね。
アメリカに移住した女性アーティストたちは数多く、特にドイツのテキスタイルデザイナーのアンニ・アルバース(Anni Albers)を追ってノース・カロライナ州にあるブラック・マウンテン・カレッジ(Black Mountain College)に行ったバウハウスの面々が大勢います。ブラック・マウンテン・カレッジは芸術学校としても非常に先進的で、バウハウスの教員だったアーティストたちを雇用、そしてメソッド等も受け継がれていきました。
この作品群を私は図書館のようにとらえアーカイブと呼んでいます。さまざまな作品が他の作品を参照する形で成り立ち、真鍮と細いワイヤーと細いチューブを用いて、山脇道子の織物、それからメキシコへ移住したバウハウスのメンバーのレナ・バーグナー(Lena Bergner)を参照しています。私自身の作品がメキシコで発表されるのはとても重要なことなのです。このように作品が巡回していくこと、当時の移住したアーティストたちと重ね合わせることを重要なこととして捉えています。
レオノール・アントゥネス(Leonor Antunes)
1972 年リスボン(ポルトガル)生まれ。ベルリン(ドイツ)拠点。リスボン美術大学とカールスルーエの国立美術アカデミーで彫刻を学ぶ。レオノール・アントゥネスの作品は、20 世紀の建築、デザイン、アートの歴史と日用品が持つ機能を関連つけながら、モダニズムのフォルムが彫刻として表現する可能性を考察している。物質の中に埋め込まれてコード化された価値や目には見えないアイデアの流れを再解釈し、ロープ、木材、革、真鍮、絹、綿といった素材を統合しながら、抽象的な構造へと変化させていく。モダニズムの様式の復興を予見するようなそれらの美学的痕跡をひっそりと手繰り寄せ、振り返りによって前進する方法を再発見した彼女は、南米、メキシコ、ポルトガルなどの伝統的な職人技を取り入れながら、合理的なデザインの背後にある構成原理や、幾何学に還元することで現実を抽象化する プロセスを研究している。彼女が影響を受けたアート作品、オブジェ、建築物のほとんどに存在する格子模様は、真鍮の網、交錯して結び合わされた紐、革紐、 織機で手織りされた綿糸の帯など、素材を変えて彼女の作品に見て取ることができる。また彼女は社会的・政治的にラディカルでありながらも、アートや デザインを通じて日常生活の向上を願う女性アーティストやデザイナーたちの実践にインスピレーションを受けてきた。これまで参加した主な展示に、国際芸術祭「あいち2022」(2022年)、光州ビエンナーレ(2018年)、第57回ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア 2017年)、 第12回シャルジャ・ビエンナーレ(アラブ首長国連邦 2015年)、第8回ベルリンビエンナーレ(2014年)、 第3回シンガポールビエンナーレ