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GAT 036 荒木 悠
再の差異、Reの話: Part 1

2021.02.17
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映像インスタレーションを主な表現媒体とし、国内外で精力的に活動する荒木悠氏。彫刻や翻訳業を経て映像制作にたどり着き、16mmフィルムやデジタルビデオへと表現の幅を広げてきた。以下は、2022年11月21日に行われたトークの抜粋である。トークでは、これまでの活動を「再現」「再演」「再生」の視点から紐解き、英語の接頭辞「Re」を手掛かりに自身の制作を探る。

構成: 石井潤一郎(ICA京都)




最近の作品をざっと見ていきたいと思います。これは京都市京セラ美術館での作品、《ノイズ》という作品です。基本的には普通のテレビの静止ノイズのように見えますが、実はこれらはすべて一つ一つ手描きで描かれています。文字通り、一つずつノイズを手描きしました。これらはすべて1秒間30フレームで、1秒ループで再生されます。

これは彦坂敏昭さんの展覧会の一部でした。彼はわたしの友人で、ここ(京都芸術大学)の先生でもあるんですけど、彼の個展の一環としてこの展覧会に招待してくれました。

「ノイズ」というのは興味深く、文化的な背景にもよりますが…例えば日本でこれ(テレビのノイズ)は「砂嵐(サンド・ストーム)」と呼びますね。彦坂さんからは『サンド・ストーリー』という個展の一環としてオファーをいただいたので、ビデオで活動するアーティストとしては、サンド・ストーム(砂嵐)に関する作品を作るのがふさわしいと思ったんです。

«NOISE» (2022) Installation view at the Triangle, Kyoto City KYOCERA Museum of Art

アート・インスタレーションに見えないところが気に入っています。近づいてよく見ない限りは、ただの壊れたテレビに見えます。これは2022年の作品で、それから 《Bivalvia: Act II》という別の作品があります。のちほどまた戻ってきますが、これはデュアルスクリーンの実験でした。

«Bivalvia: Act II» (2022) Installation view at MUJIN-TO Production, Tokyo / Photo: Kenji Morita

それから、《Away/Home》という作品なんですが、日本語のタイトルとしては前後を入れ替えて 《Home/Away》にしています。これは依頼された仕事で、大阪の中之島美術館でのインスタレーション風景ですが、わたしは3人の招待作家のうちの1人として招かれていて、ホームビデオをベースにした新しいビデオ作品を制作しました。

«AWAY/HOME» (2022) Installation view at Nakanoshima Museum of Art, Osaka

これは美術館のグランド・オープニング展覧会の一部だったんですが、初めてそこを訪れたとき、ロビーのこの空間はわたしに空港を思い起こさせました。それでわたしはカーペットを敷いて、偽物の観葉植物とベンチを設置しました。それぞれのスクリーンには、異なる年代のホームビデオが映し出されています。

さて、これら3つの作品は、一見全く異なるように見えますが、どのように結びついているのでしょうか?

今日のトークでは、大坂さんがおっしゃったように、”reenactment(リエンアクトメント / 再現)”、”remake(リメイク / 再制作)”、”reanimation(リアニメーション / 再活性)”という観点からお話ししたいと思います。

自分の過去の作品を集めて分析を始めたところ、この3つの領域が非常に密接につながっていることに気づきました。そのため、単純にもう少し追加せざるを得ませんでした。

正直に告白しますと、3つの領域で自分の作品について話そうとする試みは、すでに失敗していると感じています。

ご覧のように、”remake(リメイク / 再制作)”は”reinterpretation(リインタープリテーション / 再解釈)”に切り替えざるを得ませんでした。ですので(今回のトーク・タイトルは)実際には、「再現と再活性、そして再解釈」ということになると思います。

わたしはこの接頭辞、”re- “のアイデアにとても興味があります。わたしがアメリカから日本への帰国子女であることも関係していると思います。”re-“という接頭辞が示す通り、元の場所に戻ってくるという意味を持っています。”re-“で始まる単語を書き出してみると、これらの単語はどれも興味深く、わたしの実践も反映しています。

わたしがまったく違うタイプの仕事をしている理由のひとつは、すぐに飽きてしまうからですが、自分の練習を振り返ってみると、ざっくりとした分類ではあるけれど、スパイラルに陥っているような傾向があることに気づきました。

* 荒木はここで、自身にとって非常に重要であったというバルセロナのジョアン・ミロ財団でのグループ展「The Way Things Do」の展示映像を紹介した。

この展覧会「The Way Things Do」は、もちろんフィシュリとヴァイスの《The Way Things Go》を引用しています。

ダニエルとわたしは2010年以来の友人です。この展覧会のために、わたしたちはひとつのプロジェクトで協力することにした。わたしたちは帯広でショートフィルムを作りました。美術館でビデオ作品を上映するのはいつも難しいことで、わたしたちはある種の抵抗、あるいは少なくとも空間をまだ活用しようとする方法を考え出さなければなりません。

しかし同時に、通常の美術館で見られるループ映像ではなく、最初から最後まで通しで映画を見せたいと思っていました。

この作品のテーマは「ばんえい競馬」[*1] というユニークな競馬で、「ばんえい競馬」の最後の会場が帯広に残っているため、撮影地は北海道になりました。

わたしたちはこのためのスクリーンと装置を考案し、約20分の映像が映し出されるようにしました。映像が終わるたびにプロジェクションが停止し、その後スクリーンがゆっくりと移動します。スクリーンは手すりの周りをゆっくりと巡り、これはゆっくりとしたテンポのばんえい競馬と重なる部分でもあります。各上映の後にスクリーンはゆっくりと移動し、元の位置に戻ってから再び上映が始まる仕組みです。

美術館からの依頼で作品を制作して展示する場合、再度展示される機会がいつ来るかわからないという問題があります。そこでダニエルと話し合い、せっかくいい新作を作ったのだから、より多くの観客に見てもらおうと考えました。そこで、カラーグレーディングとサウンドのマスタリングを行い、映画祭に出品しました。幸運なことに、このロッテルダム映画祭のグランプリ、タイガー・アワードを受賞しました。

映画を制作して賞を受賞すると、他の多くの映画祭から招待が来て、さまざまな会場で上映できるという非常にやりがいのある経験です。

[*1] 北海道帯広市でのみ行われる競馬の一種で、1トンの鉄製ソリを馬が引き、障害を越える力と持久力を競う競技。

左にいるのがダニエルです。彼はアムステルダムを拠点にしていて、わたしは当時東京にいました。なので、映画祭への参加のオファーは基本的に分担していました。彼はヨーロッパ大陸と南米を担当し、わたしはアジアを担当しました。

映画祭に行くと、プロデューサーや映画監督、俳優などの肩書きが書かれたバッジがもらえます。わたしは行けなかったのですが、チューリッヒの映画祭にダニエルは行った時、映画祭のスタッフの一人が「filmmaker(映画監督)」を「file maker(ファイルメーカー)」と書き間違えました。

最終的に、確かにわたしたちはファイルを作っていることに気づいて大笑いしました。つまり、わたしたちはデスクトップやラップトップの前に座って、マウスをクリックしているだけなんですね。物理的なセルロイドフィルムを作っているわけではなく、MP4やQuickTimeのファイルを作っているんです。だから「ファイルメーカー」というのはとても正確でした。本物の映画監督を目指しているファイルメーカーです。

再の差異、Reの話: Part 2』




荒木 悠(あらき ゆう)

米国ワシントン大学で彫刻を、東京藝術大学では映像を学ぶ。日英の通訳業を挫折後、誤訳に着目した制作を始める。近年の主な展覧会に東京都写真美術館(2024年)、十和田市現代美術館(2023年)、C-LAB(2023年、台北)シドニーオペラハウス(2021年)、ポーラ美術館(2020年)、資生堂ギャラリー(2019年)、アートソンジェ・センター(ソウル、2019年)など。上映は、ロンドンICA(2021年)、マルセイユ国際映画祭(2021年)、ロッテルダム国際映画祭(2018年、2020年)など多数。2017年に光州のアジアカルチャーセンター、2018年にはアムステルダムのライクスアカデミーにゲスト・レジデントとして滞在。2019年はフューチャージェネレーション・アートプライズのファイナリストに選出される。恵比寿映像祭2023「コミッション・プロジェクト」では特別賞を受賞。

※ このトークは2022年11月28日に開催された。