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貴志真生也展 高谷史郎展
福永 信

2014.06.12
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土曜日までだ。あと2日だ。それを過ぎるとこの世から、垂直、水平、この2つについて、だれもかんがえつかなかったユニークなアイデアが、いったん消えてしまうんだから早く駆けつけなければ。貴志真生也と高谷史郎、この2つの個展だ。今年のわたくしは、性格が悪く、やさぐれて、顔つきもこの左側にある写真のようなさわやかな笑顔などじつはもはや、みじんもなく、眉間にいつも皺を寄せて口をとがらせて口髭を生やしている。わたくしがそんなことになったのは現在ある文芸誌でやっている連載のせいなのだのだが何しろそれは、他人の小説作品をランク付するというものなのである!「ABC評価」、あるいは「上半期ベスト5」。そんな表現をこのわたくしがするようになるとは、ずいぶんお前さんえらくなったものだねえとつぶやかざるを得ないわけなのだが、その「ABC評価」を選択したことには言い分(言い訳)があるのであるが、そのことはまたこのブログでおいおい書こうと思うのだが、今日のところはとにかく急がなければ。あと2日なんだ。とにかく、今年の日本の美術展の上半期ベスト5に入る展覧会が、まとめて、2つも、開催されているのである。その児玉画廊は、2階建で、その1階に貴志真生也のインスタレーション「調節方法(1)見つけるためのダウジング(2)保持するための雪吊(3)処理するための活け締め」があってこれがすばらしい。題名同様、作品もとっ散らかっていると思うが、会場の「箱」のあいだを歩いているうちに、また壁の「絵」を見ているうちに、それらが、ともに、水平からズレることがなく、また垂直を保持しつづけていることに気付く(児玉画廊のサイトでは、インスタレーションビューを公開しているので、ぜひ見てほしい)。会場の「箱」も、「絵」も、とっ散らかっているように見えながら、見えない法則の束によって、整理され、余白や隙間さえも、「空白」によって埋め尽くされているというのが歩いているとわかってくる。そして、わかったとたん、観客は、バランスを崩して、頭のなかで、尻餅をつくだろう。作者は見えない罠を仕掛ける名人である。

2階の高谷史郎「Topograph/frost frame Europe1987」は、1階とまったく対照的に見えるかもしれない。しかし、映像や写真によるこれらの作品もまた、水平と垂直を、見えない(というよりこちらはむしろ極小の、微細な)法則の束によって、独自に整理整頓していく。水平のテーブルの写真は垂直に観客の前に立ちはだかり、映像は、水平線を含む風景を文字通り「線」に、素麺のように流していく。階下の貴志真生也が、コミカルな見た目で笑いを誘いながらも、見ているうちに(時間が経過するうちに)、作者の底にドッシリある得体の知れない生真面目さに気付く、それと対照的に、高谷史郎の展示は、ユーモラスで、どこまでもつづく笑い、間延びした、ほとんどあり得ないエンドレスの笑いを見ているかぎり観客は感じつづけることになる。口のなかで、言葉をのみこむほかないだろう。



貴志真生也「調節方法(1)見つけるためのダウジング(2)保持するための雪吊(3)処理するための活け締め」

高谷史郎「Topograph/frost frame Europe1987」

会場 児玉画廊

会期 2014年6月14日(土)まで!

開館時間 11時-19時

料金 無料