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春のおすすめ①
福永 信

2014.03.03
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風呂敷といえば首に巻くもの、そして首に巻いたまま走るものと、子供、とくに男の子にとっては使い道はこれしかなく、スーパーヒーローになった気分が、風呂敷を首に巻くことで味わえたものである。それはおとなりさんも同じであったにちがいないことが、ポジャギを見るとわかるのである。というのは、ポジャギというのは風呂敷であるが、そこにはちゃんと首に巻きやすいようにヒモが両端についているのである。しかも、男の子の目をひく、赤い、あざやかな、色彩で、そこに、植物やら木の枝やら、ぐるんぐるん刺繍がほどこしてあって、かっこいい。あるいは、ポジャギのなかのチョガッポという種類のやつは、小さなはぎれの寄せ集め、ぎゅっぎゅっ、ぎゅっと、布きれがおしくらまんじゅうしているみたいで、ものすごく力強い。チョガッポを見ている男の子の小さな手は、自然に拳を握りしめるはずである(「チョガッパーンチ!!」)。ぜったいこれを首に巻いてお母さんに叱られた男の子がたくさんいたはずである。この展覧会は、その証拠品の数々が展示されているといってもいいくらいなのでぜひ実際に見てもらいたいのであるが、展示会場で、実際にポジャギを巻いてカッコいい状態になっているのは、木でつくられた雁(がん)である。この木雁は、この高麗美術館の人気者の鳥の置物であるが、今回の展示では、綺麗なポジャギがその胴体に巻いてある。結婚のとき、新郎が、新婦のお母さんに、「あの、これ、どどどうぞ」と顔を真っ赤にしながら、プレゼントするものである。新郎が顔を真っ赤にしているのは照れ屋だからであるが、そんな彼が結婚できてよかったと言わざるを得ない。さて、ところで、ポジャギは、幸福を呼ぶ縁起もので、なかむつまじいことの象徴の木で作った雁にポジャギを巻くことで、結婚の幸せが長くつづくようにという願いをあらわしているのだろう。もちろん、その雁も、子供にとってはかっこうの遊び相手であったにちがいない。「よう。飛べよ」とか、さんざん放り投げられたにちがいないが、じっさい、とても投げやすそうな首をしているのでぜひこれも会場でたしかめてもらいたい。チュモニは、ひらがなで書くとどうしようもなく可愛らしいが(ちゅもに)、どう見ても女の子用である。きんちゃく、ポーチといった用途からいっても女の子の目をひくものであって、首にポジャギをまいて、それをなびかせながら走り、手に木雁を握ったスーパーヒーローからすれば、魅力はあまりないだろうが、無視するわけにはいかない。というのは、チュモニは、めでたいとしかいいようのない、色とデザインだからである。首にポジャギを巻きつけた100年前の少年からすれば、これは、取り戻すべき財宝であるというわけである。そんなわけで、姉の部屋にしのびこみ、これを盗むことになるのだが、当然、姉さんは怒る。姉さんは、弟が首にまいていたチョガッポをぐいっとひっぱり、「母さんに言いつけるから」という。もちろん、チョガッパンチで、抵抗するが、姉さんの方が大きい。また声もでかいのである。彼はびびって、「いやだ。いやだい」と手を振りまわしているとき木雁を投げてしまい、それが家から外へ、木雁は翼をひろげぬまま、いきおいあまって高く飛んで行ってしまうのである。これにはさすがに彼も「やばい」と思ったはずである。なくしてしまったらめっちゃ怒られると青ざめたのである。それで降参して、チュモニだけでなく、チョガッポも没収されてしまうのである。というような想像を、この会場で思わずしてしまったのは、19世紀のチョガッポの展示品のひとつに穴をふさいだあとがあったからである。これは、男の子が首に巻いてさんざん遊んだ末に、穴があき、お母さんが別の布であてがったにちがいない。私は、子供の頃に履いていた自分のズボンのひざのアップリケのことを思い出したのである。

あと、会場には「信」というすばらしい漢字の文字図の墨画が展示されており、そのにんべんの「イ」の「ノ」の部分がまぬけな鳥の絵になっているのでそれもぜひ見逃さないでほしいのである。その「ノ」の鳥は、何か塔のような建物の先にとまっていてボーッとしているのであるが、それはもしかしたら飛んで行ってしまった木雁の姿かもしれないのである。

 
 
ポジャギとチュモニ展

会場 高麗美術館

会期 2014年1月8日(水)-3月30日(日)

開館時間 10時-17時(入館は16時30分まで)

休館日 月曜日

料金 一般800円 大高生500円 中学生以下無料