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文化の方舟: ヴィラ九条山【後編】
文: ピエール=ウィリアム・フルゴネーズ

2021.10.21
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Credits Villa Kujoyama

第二の息吹

ヴィラ九条山は、有名なファッション・ブランド「イヴ・サンローラン」を共同設立したフランスの実業家、ピエール・ベルジェの支援を受けて改装され、2014年にベタンクールシュエーラー財団の後援を得てリニューアル・オープンした。ヴィラ九条山のチーム [*1] はこの重要なパートナーについても詳細を語ってくれた。「ベタンクールシュエーラー財団は、2014年からヴィラ九条山の活動、アーティストとレジデンス・プログラムを支援してくれています。2019年から2021年にかけて行われる財団の支援による2度目の改装に引き続き、わたしたちのパトロンは、アーティストの滞在に最適な施設を提供し、2014年より募集の対象となった工芸分野のアーティストやクリエイターにも、献身的なサポートを寄せてくれています。わたしたちは特に京都で、工芸の作家に新たな機会を提供できたことを大変嬉しく思っています。また、日本とフランスのアーティスト(またはフランスに5年以上住んでいるアーティスト)が、交流を通して協働する公式のプログラムも開発されました」

[*1] 本稿におけるヴィラ九条山の「チーム」とは、ディレクターのシャルロット・フーシェ=イシイ、コミュニケーション・オフィサー、ロリアンヌ・ジャゴー、プロダクション&パートナーシップ・マネージャー、鴻池皐を指す。

Photo by Pierre-William Fregonese

実際に、改装後の2014年のヴィラ九条山の再オープンでは、クリスチャン・メルリオと大江ゴティニ純子による日仏の新方針が打ち出され、二国間のクリエイティブ・チームを受け入れる「九条山デュオ」プログラムも開始された。チームは語る。「ヴィラ九条山デュオの特徴は、前述の通り、フランスと日本から(あるいは「にいる」)両国のクリエイティブ・チーム(日仏一名づつ)を受け入れ、同じプロジェクト・リサーチに取り組むことを提案することです。彼らのほとんどは、選ばれるまで一緒に仕事をしたことはありません。このため、共に滞在した結果となるプロジェクトは、一方の持つ実践や背景が、他方に新たな視点を提供するかのように、彼らの実践や経験をもっと新しい形に混ぜ合わせます。ヴィラ九条山では、受け入れたアーティストたちに地元の専門家と会う機会を提供(そして強く推奨)しますが、アーティストたちが好条件で同時に招かれ、共同プロジェクトに必要な支援を受けることができるというのは、とても貴重な機会だと思います」プログラムの代表的なプロジェクトには、2015年に「Vessel」を手がけたダミアン・ジャレと名和晃平を挙げることができる。この作品は、彫刻と振付けの接点で、世界のヴィジョンが芸術的な分野を超えて表現されている。チームによると「この成功と、長期間にわたるインターナショナル・ツアーによって2人の作家の関係は継続していて、2021年には新たなコラボレーションにも取り組んでいます」とのことである。このコラボレーションは「Planet [wanderer]」と名付けられ、パリ16区にあるシャイヨー国立劇場で行われる。同劇場のプログラムによると、パフォーマンスは「ダンサーの身体をさまざまな素材にさらすことで、人間とその惑星との間にある直感的で一途なつながりを表現する」のである。

さらに、このような日仏の深い関係は、ヴィラ九条山が推進するプロジェクト全体にも刻み込まれている。滞在中、アーティストは日本でいくつかのコンタクトを取る。「双方向性のあるこの最初の文化的接触は重要です。もしヴィラのクリエイターが日本や日本の習慣から学んでいるのだとすれば、彼らは彼ら自身からも学んでいるのです。実際この接触によって、日本のクリエイターは、ヨーロッパで開発された新しい技術や、フランスではもう使われなくなった、例えば和紙といった、製紙業における職人技術などを学ぶことができます。日本とフランスでは、モノや素材が同じ機能や社会的性質を持っているわけではありません。日本では『工芸』と『芸術』の境界が流動的であるのに対し、ヨーロッパやフランスのアーティストは活動に対してより自由で、新しい方法を追求することが奨励されているかもしれません」チームはそう反芻する。そして「この異文化交流のパターンは、さまざまな規模で確認可能です。お互いのアートや実践を見つめ、自分自身に立ち返る個人のレベル、交流が新たな機会を生み出す、つまりアーティスト同士がすでに協働作業を終えていても、そのノウハウが次の世代や観客に伝えられてゆくという社会的なレベル。また「日仏」という国家規模においては、その外交の歴史は長く、両国の芸術交流は常に新しい可能性を提供しています。ヴィラのアーティストは、フランスの魅力を伝える 『ブランド大使』でもあるのです」と語る。

戦略的・芸術的パートナーシップ

前述の通り、ヴィラ九条山は、フランスと日本の異文化間の対話を促進するための分野横断的な交流の場となることを目指しており、ヴィラ九条山で生み出されるプロジェクトは、両国の社会的変化や技術の刷新を反映している。「ヴィラ九条山は創設以来、滞在中のアーティストと京都や日本本土の専門家を結びつけることを主な目的としてきました(これはヨーロッパの他のレジデンスと比較して特異な点です)。つまりわたしたちが、そもそも日仏プロジェクトなのです」とチームは語る。ゆえに、この機関は国内外の機関とも綿密に連携している。「わたしたちは、アーティストのパートナーシップに基づいて、そしてわたしたち自身、フランス、日本、そして他の海外のパートナーのための、強いプログラムを開発しています。例えばアメリカでは、フランス大使館の文化部門やイサム・ノグチ美術館と密に連携して、過去の滞在作家の展示を行なっています」

ヴィラ九条山はまた、日本のインスティテューションとも提携して働いている。2021年にはレジデンス・パートナーシップとして「トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)」と、2019年にはミモザ・エシャールのモノグラフ展のために、日本人写真家の甲斐扶佐義が経営するバー「八文字屋」と、同じく2019年、リュズ・モレノ&アナイス・シルヴェストロが開始するコラボレーション・プロジェクトのためにレストラン「ファームーン」と、「ニュイ・ブランシュKYOTO 2019」では13人の受賞者と共に「ザ・ターミナル京都」と、写真家・小野規と共に2018年の「KYOTOGRAPHIE」と、同じく2018年、ナターシャ・ニジックと䑓丸謙の映画「オソレサン」の上映を通して「第10回恵比寿映像祭」と、2019年の「ワコールスタディホール京都」、2018年の銀座の「SHISEIDO THE STORE」では、オロール・ティブーの展覧会を通してそれぞれの関係を築いてきた。京都市立芸術大学のギャラリー(@KCUA)や京都国際マンガミュージアムでは、2009年にリュシー・アルボン、2010年にピエール・ガイエフスキ、2012年にはジェラルディン・コジアック、2015年にはイリス・デ・ムウイなどの作品展を自主企画して紹介している。また日本のダンス・シーンの主要なイベントである「京都国際ダンスワークショップフェスティバル」の創設を支援するなど、文化的な仲介役も果たすヴィラ九条山は、南仏オクシタニー地方と京都府との連携、京都精華大学とリモージュ国立高等芸術学校に提携を導入する手助けをした。さらに、日本のパートナー、「京都芸術センター」そして「おおさか創造千島財団」と共に、日本のアーティストをパリのレジデンスに迎え入れ、また帰国後はフランスでの研究結果を日本で報告する機会を設ける、というプログラム [*2] も実施している。

[*2] このプログラムは「アンスティチュ・フランセ・パリ」および「シテ・アンテルナショナル・デ・ザール」の支援を受けている。

Photo by Pierre-William Fregonese

さらにチームは付け加える。「日本においても海外の機関、ゲーテ・ インスティトゥート・ ヴィラ鴨川(ドイツ)や、在日オランダ大使館と協力し、京都芸術センターと共に、ヨーロッパと日本の双方におけるレジデンス・プログラムの未来を考えています。アーティスト個人のレベルでも、京都伝統工芸大学校(TASK)や、京都精華大学、京都芸術大学(KUA)、あるいは「ニュイ・ブランシュ京都」のような市の特定のイベントとのコラボレーションを行います。ヴィラ九条山は、多くの国際的なイベント(Res Artis(アーティスト・イン・レジデンスの世界ネットワーク)や、ICOM(国際美術館会議)など)に参加するなど、芸術、経済、研究など、様々な分野のネットワークの中で、日々密接な活動を行っています」

最後になるがヴィラ九条山は、1972年10月に日本国外務省管轄の特殊法人として設立され、2003年10月に独立行政法人に改組された国際交流基金が運営する、パリ日本文化会館など、フランスの一流機関とも国際的な関係を築いている。これによりヴィラ九条山に滞在していたアーティスト、例えばファブリス・プランケット(2006年)や、シモン・ゴーシェ(2018年)は、滞在終了後にパリ日本文化会館で作品を発表することが可能となった。2017年には、両機関がパートナー契約を結び、ヴィラ九条山のアーティストがパリ日本文化会館で定期的に作品を発表できるようにもなった。

まとめるならば、ヴィラ九条山は、日本で生まれた最初のアーティスト・イン・レジデンスの一つであり、アジアにおけるフランス政府の歴史的なレジデンスである。今日、様々なレジデンスが発展し続ける中、ベタンクールシュエーラー財団の支援に守られたヴィラ九条山は、各機関との強力な関係をもって運営している。日本で開催される、日本におけるフランス祭「ラ・セゾン」が間近に迫った今、最後の言葉はヴィラ九条山のチームに委ねたい。「ヴィラ九条山はその存在そのものから、すでに日仏間のプロジェクトです。次の日本におけるフランス祭では、およそ30年間をかけてアーティストたちによって築かれてきた両国の架け橋であることを祝い、さらに多くの方々にわたしたちの活動を知ってもらいたいと考えています。これは2023年の、ヴィラ九条山生誕30周年記念の後、そして2024年のパリ・オリンピックの前に開催されます。わたしたちは、常に日本とフランスの間にいるのです!」

前編】を読む




ピエール=ウィリアム・フルゴネーズ
神戸大学国際連携推進機構 国際教育センター
プログラムコーディネーション部門 特任准教授(文化・社会)

Pierre-William Fregonese. Interview with Christophe Galati. Personal interview. July, 2020.
Pierre-William Fregonese. Interview with the team of the Villa Kujoyama (Charlotte Fouchet-Ishii, Lauriane Jagault, and Satsuki Konoike). Personal interview. August, 2020.
L’Institut Franco-Japonais du Kansai (1927-2003). Kyoto: Institution Français du Kansai, 2003.
Serres, Michel, “Pour célébrer l’échange.”, Transcript of speech delivered at the Inauguration of the Villa Kujoyama, Kyoto, Nov. 5, 1992.
Villa Kujoyama 25 ans, ヴィラ九条山 25周年. Kyoto: Villa Kujoyama, 2017.