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KYOTO STEAM 2020国際アートコンペティション スタートアップ展
文:福永 信

2021.02.26
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撮影(すべて):麥生田兵吾

近年、言葉に対して人間は、臆病になるか、もしくは全く反対に、他人を傷付けるほど凶暴な言葉を吐くか、どちらかの傾向が際立つが、後者は社会問題になるけれども、前者は、話題になることがあまりない。言葉に対して臆病になるとはどういうことか。私の考えでは、それは、間違えることを極端に嫌うことであり、失敗することを回避することであり、媚びることであり、隠蔽しようという意識が働くことである。

本展は「企業・研究機関等」と「アーティスト」「芸術系大学等」による「コラボレーション作品」を「中心に」した展覧会であると説明書きにある。実際には「コラボレーション作品」とは呼べないものも含んでいる。「中心に」とわざわざ断わって、間違いを指摘されないようにしているのはそのためである(「芸術系大学等」の「等」も同様の表現)。「コラボレーション作品」を「中心に」と書いておけば「コラボレーション以外の作品」が会場内にあることをほのめかしながら、それが何なのか明示する必要がない。しかし、会場を歩けば、誰にでもすぐにわかる。

curiosity 株式会社《Interference》
AR・プロジェクションマッピング・レーザスキャナ、サイズ可変、2020年

パナソニック株式会社×Konel《TOU-ゆらぎかべ》
ミクストメディア、幅250.0 ×奥行70.0cm ×高250.0㎝、2019年

curiosity株式会社の《Interference》は、観客が床を歩くと水の波紋のような映像が動きに合わせて発生する、インタラクティヴな楽しい作品である。またパナソニック株式会社とKonelという会社が「共同開発」した《TOU-ゆらぎかべ》は、風に反応し壁面に形として再現する作品で興味深かったが建築への展開がすでに見込まれている「家電製品」である(専用のサイトもある)。これらは新しい製品のプレゼンテーションであって、商品化というガッツリした目的がある。「アートコンペティション」を謳う本展はそんな「目的」を設定できない(はずだ)。したがって、本展は死んでも「製品のプレゼンテーション」というフレーズを吐くわけにはいかない。しかし、どちらかといえば、本展は将来的にそっちの方向へ舵を切りたい思惑があり、ひとまず「コラボレーション作品」を「中心に」という書き方でごまかしておこう、そしていずれ、ヘッヘッヘ、本展を製品プレゼンの場にするのだッ!というのは完全に私の想像であるが、しかも一文が長く読者に申し訳ないけれども、「アーティスト」という存在は、むろん「企業・研究機関等」にとって異質な他者であり、何をしでかすかわからない存在なのであって、「製品のプレゼンテーション」をしに来たのでは断じてない。

林勇気×京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)《細胞とガラス》
映像(声の出演:大石英史・協力:西川文章)、8分55秒(ループ上映)、2020年

「林勇気×京都大学iPS細胞研究所(CiRA)」による《細胞とガラス》は、iPS細胞の普及した近未来を舞台に、語りをベースにした映像作品なのだが、重要な場面設定である「窓」の、暗喩としての機能が曖昧なまま、結局なんとなく儚さと希望をほのめかしただけで終わってしまった。制作過程でアーティストは様々な知見を得ただろうが、京都大学iPS細胞研究所へのフィードバックは何もないだろう(作品内で描かれた「近未来」が研究に影響を与えたりしないだろう)。我々観客も、ロマンチックなイメージ映像を得ただけであり、つまり「コラボレーション作品」として失敗しているのだが、しかし、それでいいと私は思う。「iPS細胞」という、国内で広く知られたイメージをイジるのは難しい。誰がやっても失敗する相手であって、林は、失敗やリスクと「コラボレーション」したようなものだ。当然のことながら「製品プレゼン」とは真っ向から対立する。林のコラボレーションに対する態度は、来年の本展の参加者へ、勇気を与えるはずである。しかしながら、全13組の展示作の中で、「林勇気×京都大学iPS細胞研究所(CiRA)」のような例は見られず、適度に相性が良さそうな相手と組んだ、タイアップにすぎない作品が、ほとんどだった。失敗することもできず、「企業・研究機関等」の広告に終始している姿は、我々観客のテンションを下げまくった。

森太三×太陽工業株式会社《膜のはざま》
膜・木材・アクリル塗料他、サイズ可変、2020年

そんな中、「森太三×太陽工業株式会社」による《膜のはざま》は幸福な「コラボレーション作品」だったと思う。「膜」とは太陽工業株式会社の開発している建築的な展開が可能な素材のことであり、本作では廃棄予定の製品がゴミの山のように天井まで、また壁を圧迫するほど集積している。「製品」のなれの果てのような外観はぐちゃぐちゃ、皺々、ツギハギのスペクタクルであって、違法廃棄さながらの光景は、自社製品の使われ方として企業が嫌がりそうなイメージだが、アーティストは媚びていない。企業にしてもアーティストの発想を楽しんでいるフシがある。じゃんじゃん使えばいいよ、遠慮すんなよ、というふうに。観客は「膜」の裏側に入り込むことができ、即興的な建築と言えそうな木材の森の中を散策することになるだろう。デタラメに組み立てられているようでいて、至る所で木材は彫刻的な構成を演出しており、立ち止まり、思わず目をこらしてしまう。遊び心(失敗を恐れない大胆さ)と、あり合わせの物(お金をかけない)とを駆使するアーティストの手腕は、企業に驚きと共に影響を与えたはずだ。社外役員等に誘った方がいい。

 

ふくなが・しん(小説家。京都造形芸術大学芸術学科中退)

※『KYOTO STEAM 2020国際アートコンペティション スタートアップ展』は、2020年10月31日~12月6日に京都市京セラ美術館 東山キューブで開催された。