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自由民主の国だからと云って義憤に堪えないことも随分ある場所で
アメリカ滞在の技術的な覚書と少しそれ以外のこと(2)
文: 金井学

2022.02.08
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Photo by Kanai Manabu

受け入れ先

さて「受け入れ先」だ。先に書いたように文化庁や国内の財団等の研修制度に応募する際には「受け入れ先」が必要となる。僕自身は別としても、文化庁のこの制度の美術分野に限って言えば、実情として30代~40代のある程度国内外ですでに経験を積んだ「中堅アーティスト」が多く採択され、セルフ・ディレクテッドにそれぞれの活動内容に取り組んでいる状況にあって、全員に「受け入れ先」を求めることがどこまで必要なのかよくわからないのが正直なところだけれど、しかしながら、あくまでこれの、そもそもの制度設計が「新進芸術家(Upcoming Artists)」が海外で指導を受けるための「研修」の上に為されているのだから、それも詮無きことなのかもしれず、何れにせよ、とにかく「受け入れ先」を見つけないことには事が前に進まないのが現実だ。[*3]

受け入れ先については色々な方にお話を伺ったことがあって、僕が知っている範囲だと、滞在予定地に在住の個人(アーティストや大学教員等)、組織(研究機関や教育機関、財団等の団体)、あるいはレジデンシーなどが割とよくあるケースだと思う。実際に受け入れ先を探す際には、まずは予定している活動内容に照らして考えるわけだけれど、既に適切なメンターとなってくれそうな人と個人的関係があればお願いしてみるのも良いかもしれないし、あるいは自分の活動内容を理解して応援してくれそうな組織があれば、思い切って受け入れの可能性を相談してみるのも手だと思う。アメリカに限っていれば、アーティストのトラストや財団といった団体、美術館やアーカイブセンター/リサーチセンター等、大小様々な芸術関連の組織があり、アーティストや研究者に広く開かれているので、活動内容や状況を説明し研修の受け入れと支援を丁寧にお願いをすれば、お返事ぐらいは頂けると思う(むろん門前払いもたまにはあるけれど、仕方のない事なのであまり落ち込まないこと。でも僕の経験では、本当に自分の取り組みたいと考えていることの意義と、お願いしたいサポートを丁寧に伝えて相談すれば想像以上にお返事を頂けることが多い)。助成金やフェローシップへの応募スケジュールを考えると、アプリケーションの段階で受け入れ先が決まっている必要がある(正式なレターは後で提出でも良いかもしれないけれど)場合が多いので、逆算して間に合うように動かなくてはいけない。AiR等のプログラムという形で公募がある場合には、年単位でスケジュールのサイクルがあるので、まずはそのサイクルに合わせて応募して選出される必要があるので、場合によってはかなり前から準備する必要があって、例えば僕の場合では最初に受け入れ先にアプローチしたのは今から3年前(2018年)だ。

さて今回の僕のケースでは、冒頭に書いたようにRUのAiRプログラムに参加することを選んだ。AiRを選んだ最大の理由はAiRを通して自身が計画する活動内容を超えた経験を得る機会を期待したことにあって、これは先に書いた「ある程度の長期滞在では、活動の興味関心の周縁にあるような事柄が結構重要ではないか」ということに関わっている。僕自身は、幸運なことに既に多少の日本国外での活動経験があったので、今回の滞在活動の中心的な目的に限っては自分の力だけでリサーチなり制作なりといった物事は進められる自信がそれなりにあって、しかしその一方で、興味関心の周縁にあるものは見えにくくなるおそれがあって、自分の予測を超えてリサーチを掘り下げたり、あるいは活動を更に大きな視座へと開かれていくような機会と事故的に出会う、そのような場としての機能をAiRに期待したいと考えていたのだ(そして3ヶ月を過ごした今の感触として、その期待は大当たりだった)。ニューヨークをベースにしているアーティストに加え、各々の様々なプロジェクトや興味や期待や野心を持ってこの街にやってくる他国のアーティストと議論や情報交換ができるAiRの環境も、その意味でとても魅力的だった。

Residency Unlimited. Photo by Kanai Manabu

もちろんニューヨークでAiRプログラムに参加と言っても様々な選択肢があり、どこでどんな人と一緒に仕事をするのかというのは結構重要なことだから、自分に適したプログラムを探すのもなかなか難しいかもしれない。ただ僕の場合は実はこの点についてはあまり迷っていなくて、それというのもRUに参加してみたいと考え始めたのは今回の文化庁への申請よりももっと以前だからだ。その理由はRUのディレクターであるナタリー・アングレという人にある。最近はあまり信じてもらえないのだけれど、僕は自分の芸術実践を発展させる中で田中功起の影響をものすごく受けていて、特に大学院で美術を勉強するようになった2005年頃に彼の作品を知った時の衝撃は凄まじいものだった(余談だが、僕はそれ以降、彼の国内の展示やトークやポッドキャストなどを追いかけ、2013年にヴェネチアまで行くことになる)。作品自体が魅力的だったのは言うまでもないけれど、やはり僕が一番興味を持ったのは、そのような創造的行為を背景で吊り支える思考の論理のあり方や、それがどのような環境の中で発展していっているのかということで、当時アーティストが自分のウェブサイトを作ることが一般的になり始めたことも手伝って、それを窺い知るヒントはないものかと作品や活動の情報に加えて経歴やCVから関係するアーティストやレデンシー、芸術団体、美術関連の人等の繋がりを芋蔓式に調べ、自分が興味深く思えるネットワークがどのように広がっているのかを自分なりにマッピングして資料化したりしていた。そんなことをしている中で、当時の僕にとっては、田中功起の制作が新たなモードが入ったように見えて夢中になった《Plastic bags into the sky》が、2004年にニューヨークで作られていたことを知ることになる。彼がACCのグランティとしてニューヨーク滞在していたこの時に参加していたと思われるのがロケーション・ワンのプログラムであり、そしてその頃のインターナショナル・レジデンシー・プログラムのディレクターこそがナタリーであった。その後ロケーション・ワンは無くなってしまったが、それでも僕自身はいつかニューヨークに行くことがあれば、そのような新たな変化をもたらすようなところで仕事をしたいと思っていて、そして、しばらくしてナタリーがブルックリンにRUを立ち上げていたことを知ったのだった。というわけで、僕の場合はいつか何らかの形でナタリーと仕事をしたいと考えていたのが15年前くらいからあって、1年間のうちどの程度AiRプログラムに参加するのかとか、活動内容に合わせて他の受け入れ先も検討すべきか、というようなことは考えたけれど、RUに応募することだけは自分の中で決まってしまっていた。改めてこう振り返ると随分偏った情報の探し方をした気もするけれど、時には自分が本当に興味を持っているアーティストが触れていたであろう環境や人間関係を想像するところから自身の行き先を考えるのも悪くはないかもしれない。

せっかくなのでRUのプログラムの中身について少し書いておくと、良い意味で小規模なこと、全員の顔が見える関係の中で仕事ができる場であることが最大の特徴ではないかというのが、現段階での僕の印象だ。ニューヨークにいくつもある有名な大規模AiR施設と違って、RUはキャロル・ガーデンズの教会の中にある多目的スペース以外に自分たちの固定したスペースは持っておらず、滞在する人のニーズに合わせてプログラムを組む(制作のためにスタジオが必要であれば、スタジオ探しをサポートしてもらえる)。RUはこれを”tailored”と表現しているけれど、これは立派なスタジオ施設が無いことを言い訳がましく覆い隠すための飾り言葉ではなくて、実際にアプリケーションの段階から僕自身がどんなアーティストで、何に興味を持っていて、どんな活動をしたいと思っているのか、そしてその為にどんなサポートを必要としているのかを、可能な限り深いレベルで相互に共有しようとする姿勢を感じることができる。僕の活動が今どのように進んでいて、何を必要としていて、どんな喜ぶべき進展があったのかといったこともきちんと受け止めてもらえて、それに対して随時サポートやアドバイスが得られること、そして何よりも特筆すべきは、いい感じのタイミングで僕のリサーチのアンテナから絶妙に外れたところにある情報や人を結びつけてくれること(そしてそれは往々にして思いもよらなかった新たな展開をもたらす)――このような親密さと刺激が入り混じった独特の雰囲気は、なかなか得難いものだと思う。これは、やはりディレクターのナタリーの人柄と、彼女のとてつもないバイタリティ(実際、僕らRUのレジデント・アーティストたちは、彼女がいったいいつ寝ているのだろうかという話をよくする)による部分が大きいように感じていて、それがRUの中に何とも言えない前向きな力を吹き込んでいるように思う。

For the welcome gathering: New residents introduce their practice at the monthly welcome gathering at RU. Photo by LuLu Meng

[*3] なお関連して「新進芸術家海外研修制度」の名称について一言付記しておくと、美術の分野については数年前から1年研修の応募対象年齢が50歳まで引き上げられており、実情と名称の間に大きな乖離が生じているように思う。本制度の英訳は「Program of Overseas Study for Upcoming Artists」であり各種レターでも用いられるが、仮に大学卒業後から活動したとして28年の活動歴を持つ50歳のアーティストをUpcomingとして送り出すのは(Upcomingに年齢の含意が無いにしても)国外ではあまり理解されない、というかむしろ誤解を招くと思う。私見に過ぎないが、そもそも美術分野の年齢の引き上げは、本来ミッド・キャリアの支援制度を考えるべきところで既存の枠組みの対象年齢のみを拡大したように見え、結果として、いたずらに競争率をあげて本制度が本来支援対象とすべき若手を遠ざけ、中堅層の支援自体を店晒しにした印象は否めない。

その他もろもろ

やりたいことと行きたい場所がはっきりしていて、受け入れ先も決まって、実現した際の身の振りや必要な資金の算段がついたら、あとは文化庁や各種財団に申請をして結果を待つ。採択されたら万々歳……なんだけれど、実際に採択されたら実現に向けて色々と準備が始まるので結構忙しい。ここから先は渡航先や個別のケースに合わせて様々なので、アメリカへの渡航準備の実用的な情報として箇条書きでまとめておく。

  • ビザについては上記の通り。とにかく大切なのは必要書類を集めることと時間にゆとりを持って申請を進めること。

  • 荷物や渡航に際しての引越しについては、僕の場合、家族が東京に残ってくれているので必要なものを送るだけで済んだ。飛行機で運べる分量に加えて資料や書籍が必要だったので、当初一番経済的な郵便で送る方法を予定していたが、きちんと調べなかったせいで実はコロナの影響で利用不可だったことが直前に判明し、急遽、日本通運の国際宅配便サービス(航空便)を利用することに。段ボール2箱で50kg、9万円程かかってしまった。

  • お金に関してはクレジットカードやデビットカードで凌げる場面が多いが、現金が必要な場面や、アメリカでは家賃や各種料金等の支払いに小切手やマネー・オーダーを使う文化が想像以上にあるので、アメリカ国内の銀行口座開設は必須と思った方が良い。ところが口座開設には原則ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN)が必要で、Bビザ等の一時滞在外国人はSSNが取得できない。ではどうするかというと、三菱UFJ銀行のサービスでユニオン・バンクの口座を開設するのがおそらく唯一の選択肢。手続きはオンラインの申し込みと郵送でできるけれど、時間がかかるのでできる限り早く着手すると良い。

  • 日本からの送金や日常のカード決済にはWise(旧TransferWise)のサービスを利用している。送金手数料が安く送金処理が早いこと、また異なる複数の通貨を一つのアカウントで管理できるので、レジデンシーなどで色々な国に行く場合にも利便性が高いと思う。レジデンシーでも最近は利用しているアーティストに会うことが増えた。

  • 住まいは僕の場合は普通に不動産屋と契約してアパートを借りている。家探しから契約までは大変だったけれど2週間ちょっとでどうにかなった。事前に現地の不動産情報を調べて(StreetEazyとかTriplemint等)候補エリアと相場をある程度把握しておくこと、実際にその街や物件を確かめること、ブローカーや大家ときちんと話をして契約を明確にしておくこと、これらを心に留めて慎重に進めたが、予想以上にスムーズに家を見つけることができた。最大の問題は賃貸契約時の収入証明で、文化庁のレターや預貯金の証明はある程度役に立つものの、アメリカの入居審査で直面するクレジット・ヒストリーのチェックを突破できない外国人はお金でどうにかするしかない。僕の場合は6ヶ月分一括払いで契約できることになった(現在の法律ではこのような前払い契約は違法になったという話も耳にする。詳しいことはわからないが、結局このような若干グレーな契約も横行しているのかもしれない。何れにせよ身寄りもない外国人として生活する上で、最後はお金で解決しなければならないことはそれなりにある)。

  • 家やスタジオ探しの参考にListings Project(LP)が役に立つ場合もある。LPはアーティスト同士の掲示板サイトのようなプロジェクトで、スタジオ物件やスタジオ付き住居、現地在住アーティストの他国AiR参加によるサブレット募集等の情報が出る。条件とタイミング合わないとなかなか借りるのは難しいけれど、同世代のアーティストが住んだり制作している地域などを理解する上でも役に立つ。

  • 携帯電話等は言うまでもなくあるととても便利。SIMフリーの端末を持っていれば様々なMVNOと簡単に安いプランで契約できる(僕は月に$15ぐらい)。SIMは近所の薬局やスーパーや空港でも1ドルぐらいで売っているので、良さそうな月契約プランのある事業者のものを買って端末に入れ、アクティベーションの手続きをすれば即使えるようになる。

とりあえず実用的な情報としてはこんなところ。次回はアメリカでの具体的なリサーチやアーカイブ調査などについて紹介したい。

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金井学(かない・まなぶ)
アーティスト。1983年東京生まれ。自由学園卒業後、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修士課程を経て、東京藝術大学大学院博士課程美術専攻修了(博士:美術)。2021年より文化庁新進芸術家海外研修制度でニューヨークに滞在中。