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アーティスト・イン・レジデンス(1):
自由と安全、多様性を担保し、アーティストをインスパイアする場。
文: 日沼禎子

2022.11.10
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アーティスト・イン・レジデンス(AIR)という仕組み、活動に出会い、仕事として携わるようになり20年余の時が過ぎた。それが短いのか長いのかもわからないけれど、自らの仕事を(少し)振り返り、拙いながらも、その経験を伝える役回り、年齢になってしまっていたようだ。筆者は青森公立大学国際芸術センター青森(通称「ACAC」、開館2001年)の学芸員としてその立ち上げから関わり、国内外のアーティストの滞在創作、市民交流のプログラム運営に携わってきた。現在の仕事に移ってからも、官民のいくつかのAIRプログラムの運営、国内AIR担当者間のネットワーキング、また所属する大学でも今年度より実験的なAIRを実施するなど、AIRを中心としたさまざまな活動を継続して行なっている。ここから数回の連載という形で、私自身が経験したAIRをめぐる出来事や物語を記述していく。世界に無数に存在するAIRとそこに携わってきた多くの人々の積み上げに比べれば、それはほんの一粒の砂のようなものであるが、少しでもAIRに興味を持ち、自らのフィールドとして飛び込む若い世代への参照となれば幸いである。

Museum Insel Hombroich(ノイス、ドイツ)。
自然と人間・アートとの関係について深く思考できる、自分にとって大きなインスピレーションを与えてくれた大切な場所の1つ。

AIRとは何かを伝えるために、まず一番に挙げたいこと。それは、AIRとは自由と安全を担保し、常に「アーティストの味方」であるということである。もちろん、いうまでもなく、AIRというプラットフォームが社会的な場である以上、ある種の制限や条件が付加される場合がある。しかし、AIRは最大限にアーティストの表現、創造的な活動を支えることを第一の目的、その理想としている。アーティストは安心して制作と思考に集中できる時間とスペース、時には資金を得て、そのアイデアや技法を具現化するための試行錯誤をすることができる。次に、当たり前のようではあるが、AIRはどれひとつとして同じものはなく、その可能性は無限大である。国や地域の文化的背景、周囲の環境や建築を含む空間、その土地でしか目にし、手に入れることのできない素材、あるいはAIR創立のミッション、それにもとづき運営・支援に携わる人たちとの関係性など、そうしたすべてを含むさまざまな要素との偶然・必然的な出会いが、アーティストをインスパイアする。そこで生まれた可視・不可視の表現は、アーティストの成長と創造的生活を支えるだけではなく、文化の生態系を支えているといっても過言ではない。創造性にとってもっとも大切なインスピレーションと経験を求めて、今も地球上のあちこちでアーティストが移動し、多くの物事に出会い、いくつもの豊かな対話、表現が生まれている。そのひとつひとつが種となり、萌芽し、花を咲かせ、果実を実らせ、やがては大きな森へと育つ姿を私は想像する。アーティストが得た経験は、風に乗り、海を超え、やがて長い時間をかけて文化というものに帰着し、私たちは、時代、地域を超えて、有形無形の豊かな恩恵を受けとっている。AIRはそうした循環の中で、無くてはならない存在なのである。

欧州のAIR調査で訪問したNDSM WERF(アムステルダム、オランダ)では、空間のみならず、表現の場所を獲得したアーティスト、クリエイターたちの志、スケールの大きさに圧倒された。日本のAIRでもモデルケースとされることが多い。

AIRへの参加、経験をするにはいくつかの方法があり(特にこのサイトでは、AIRのためのサポートを行なっている)、多くの場合には自らの活動に見合う、あるいはこれまでにない経験を求めてプログラムを探し、申請を行うということが最も一般的である。また、ごく限られた機会として、グラント、アワードの副賞としてAIR参加の機会を授与されるケース、あるいはキュレーションにより指名・招待される機会を得ることもある。若いアーティストにとって、後者のような機会が巡ってくることはなかなかないだろうし、自ら申請するためのプロセスや滞在中の言語、生活習慣の違に対する不安もあるだろう。しかし、待っているだけでは好機は訪れない。ならば、自分でそのドアをノックしに行くしか術はない。さあ、あなたのファーストAIRを探しにいこう。(次回へ続く)


日沼禎子(ひぬま・ていこ)
女子美術大学教授、AIRネットワーク準備会事務局長、ときわミュージアムアートディレクター。1999年から国際芸術センター青森設立準備室、2011年まで同学芸員を務め、アーティスト・イン・レジデンスを中心としたアーティスト支援、プロジェクト、展覧会を多数企画、運営する。さいたまトリエンナーレ2016プロジェクトディレクター、陸前高田AIRプログラムディレクター他を歴任。